円の面積と円周率と有効数字

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経緯

先日バズっていた小学校の円の面積の問題(toggetter:算数の問題「円周率を3.14とするとき、半径11の円の面積を求めよ」の解を379.94とするのは誤り?)をきっかけに円周率とその教え方について考えてみたのでまとめておく。発端のツイートは以下の通り。

円周率とは3.14のことではない

一般に、円周率は(円の周長)/(円の直径)と定義される量である。円周率はユークリッド平面上では3.14159……と続く循環しない無限小数(無理数)である。したがって問題文の「円周率を 3.14 とするとき」という日本語を「円周率を(厳密に)3.14であると定義する」と解釈することは完全に誤りである。これは円周率という量を3.14で近似すると解釈しなければならない。

蛇足

円周率を(円の周長)/(円の直径)と定義するとき、これが厳密に3.14になる空間は構成できるかもしれまない。円周率が厳密に3.14であり、半径 \(r\) の円の面積が \(3.14r^2\) となる空間が構成できるかもしれないが、わからない。ちなみに、空間が曲がっている一般の曲面上では円周率は一定にはならない。全ての円が相似であるという条件が成立しないからだ。このような「曲がった」空間を扱う幾何学は非ユークリッド幾何学と呼ばれている。

「面積は 379.94」 は明白な誤りなのか

円周率を3.14で近似したので、面積の真の値 121×(円周率) を小数で表示したもの(無限に続くので実際は全てを表示することはできない)と比較すると、4桁目以降は一致しないという意味で間違いである。面積は380と答えるのが、「有効数字を考えた近似値の表示のしかた」としては正しい。もちろん面積の真の値が380であるわけではない。

補足

\(δ:=π-3.14\) と定義する。3.14が円周率の上から三桁であるということは \(0<δ<0.01\) であるということである。3.14を使って計算された面積 \(S'\) は

\begin{align} S'&=3.14×r^2\\ &=(π-δ)r^2\\ &=πr^2 - δr^2 \end{align}

となり、真の面積 \(S=πr^2\) より \(δr^2\) だけ小さくなる。\(r=11\) のとき、

\begin{align} δ×11^2=121δ < 1.21 \end{align}

となるので、真の面積 \(S\) より最大で1.21程度小さい値となる。上から4桁目以降は一致しないと言うのはこのような意味である。したがって、以下のコメントは的外れであるといえる。

有効数字について

本来的な意味での有効数字は、測定に伴う不確かさと真の値との関係を示す意味で使われる。 例えば円の半径を測定して、

πは定まった値をもつ(有限の小数では表示できないが)ので任意の精度まで上げることができるという意味で不確かさ0である。

この問題の狙いはなんなのか?

どのように指導するのが小学生にとってよいのか、何を配慮すべきなのかということを考える。この問題はおそらく円の面積公式と、ある程度の大きな桁の数および小数の計算の練習として出題されたと思われる。その意味ではこの問題は十分機能していると考えられる。円周率を3.14として計算した結果は本当は正しくない値であることを伝えれば問題がないだろうと思う。もっと言うならば、3.14は真の円周率の値より少し小さいのでこれを使って求められた値は本当の値より小さくなるという程度のことを伝えればよいだろう。上から何桁目までが「真の値」と一致するかなどといった有効数字の議論は小学生には難しすぎるだろう。設問に「上から三桁のがい数で答えなさい」と追加した方がよいという意見も見られた。たしかにそういう方法もあるが、有効数字を教えないのに概数で答えさせるのは少しやりすぎな気がする。

関連した問題

そんなことより小学生に、円の面積が(半径)×(半径)×(円周率)であることをきちんと納得させるほうが難しい気がする。納得させる必要はないのかもしれないが。 あと今回の件で有効数字とか誤差とかについてわかったようで誤解している人が多そうだと認識した。いや、書いてる私がきちんと理解している保証もないのだけれど。難しいよね。

最後に:共感したツイートまとめ

著者: ril

Created: 2021-10-13 Wed 23:46

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